夫が怒っているとき、私は何を言ってもさらに怒られるので、黙っていることがあります。
すると夫は、
「なんで黙ってる?話し合おう」
と言います。
そこで、私が黙っていた理由や自分の考えを話すと、
「俺を責めて楽しいか?」
と怒り始めます。
「責めてない」
と説明しようとすると、
「お前は俺が悪いって言いたいんだろ!」
「悪いのはお前だろ!!!」
と怒鳴り散らします。
黙っていれば「話せ」と怒られ、言われた通りに話せば「俺を責めるな」と怒られる。
このように、どちらを選んでも責められ、逃げ道がなくなるような状況をダブルバインドといいます。
この記事では、ダブルバインドがどういうものなのかと、何を言っても「悪いのはお前」になるまでの実際のやりとりを書きます。
ダブルバインドでは、正解も逃げ道もなくなる
どちらを選んでも怒られたり責められたりするので、被害者はどうすればいいのか分からなくなります。
さらに、「何もしない」という選択まで責められると、逃げ道もなくなります。日本語では二重拘束と訳されます。
よくあるダブルバインドの例
ダブルバインドでは、たとえば次のようなやりとりが起こります。
- 「本音を言って」と言われて本音を言うと怒られる
- 「なんでも相談して」と言われて相談すると否定される
- 「自由にしていい」と言われて自由にすると責められる
身近な例でいうと、上司から、
「わからないことは何でも聞け」
と言われて質問したら、
「それくらい自分で考えろ!」
と怒られるような状態です。
よくネットなどでネタにされる、
「お母さん怒らないから本当のことを言って」
と息子に言って、息子が本当のことを言うと母親に怒られる、というのも似たようなやりとりです。
こうしたことが一度だけなら笑い話になることもありますが、モラハラで何度も繰り返されると笑い話では済みません。
もともとは、統合失調症の原因とされていた言葉
ダブルバインドという言葉が最初に使われたのは、1956年の論文です。
文化人類学者のグレゴリー・ベイトソンらが、Behavioral Science誌に発表しました(Bateson, Jackson, Haley, & Weakland, 1956)。
当時のダブルバインド理論は、統合失調症の原因を説明するためのものでした。
たとえば、親から「こうしろ」と言われてその通りにすると、今度はそれを否定される。
かといって別の行動をとっても否定され、さらにその矛盾した状況から逃げることもできない。
こうしたやりとりが繰り返されることが、統合失調症の発症に関係すると考えられていました。
しかし、この理論は現在、統合失調症と家族関係を説明する理論としては支持されていません(Koopmans, 2001)。
うちの夫の場合
ここからは、うちで実際にあったダブルバインドを書きます。
「話し合おう」と言うのに、話すと責められる
冒頭に書いたやりとりは、何度もありました。
「なんで黙ってる?話し合おう」
と言われて私が話すと、
「What did I do?!」(俺が何をした)
「It’s not my fault」(俺のせいじゃない)
と返されます。
私は夫の言動について話しているはずなのに、いつの間にか「お前は俺を責めている」「悪いのはお前だ」という話に変わっていきます。
こうして夫に論点をずらされ、話し合いにならなくなることは日常茶飯事です。
決めないとキレるので、私が決める
夫は、外食する店やその日に何をするかを自分で決めません。「決めて」と私に任せます。
でも、何を選んでもいいわけではありません。
外食なら、夫が食べられるものがある店を私が探します。夫は好き嫌いが多く、条件に合わない店を選ぶとそこで揉めるからです。
かといって、「じゃあ自分で決めて」と任せても決めません。私が何も決めないままでいると、それでも怒り出します。
だから私は、夫の条件に合う選択肢を探して、その中から決めています。
めんどくさいですが、そのほうが楽という矛盾です(笑)
私が何を言っても、結論は「悪いのはお前」になる
私は、自分の対応を変えれば何か変わるのではないかと考えて、いろいろ試しました。
言い方を変えたり、矛盾を指摘したり、何も言わずに黙ってみたこともあります。
でも、どの対応をしても、最後は「悪いのはお前だ」と言われます。
「さっきと言ってることが違う」で火に油
夫との会話で、「さっきと言ってることが違うよ」と指摘したとします。
「話し合おうって言ったのは、あなただよね」
「えっと、間違ってたらごめんね。さっきはこう言ってなかったっけ?」
そう返すと、夫はさらに怒ります。
「お前は俺が悪いって言いたいんだろ!」と言われたり、「そんなこと言ってない」と、さっきの発言そのものを否定されたりします。
私は話を整理しようとしているだけなのに、夫にとってはそれも「俺を責めている」ことになります。
何も言わなくても、結局キレる
何を言っても夫はキレるので、だんだん何も言わなくなりました。
怒鳴られても言い返さない。議論しない。「そう思うんだね」で終わらせる。できるだけ反応しない。
ところが、私が黙ると今度は、
「なんで黙ってるんだ」
「何か言え」
と怒ります。
話せば怒られるのに、黙っていても怒られる。
何度も同じことを繰り返すうちに、夫がほしいのは、結局「私が悪い」という結論なんだと思うようになりました。
ダブルバインドを避けようと、いろいろな方法を試した
話すタイミングを変えたり、言い方を変えたり、文章で伝えたりもしています。何を試したかは、こちらの記事に詳しく書いています。
そのほかにも、私は二つの方法を試しました。ひとつはグレーロック、もうひとつはBIFFです。
グレーロック法:感情を見せずにやり過ごす
グレーロックは、相手に感情的な反応を見せず、必要以上にやり取りをしない方法です。
前の章で書いたように、私は夫に怒鳴られても言い返さず、議論せず、できるだけ反応しないようにしていました。
職場の人や知り合いなら、私は今でも似たような方法を使うことがあります。
必要以上に反応せず、その人から離れれば、そこでやり取りを終わらせられるからです。
でも、同じ家に住んでいる夫とはそうはいきません。
私自身も、感情を抑えてグレーロックをやり続けることにイライラして疲れるようになりました。
そこまでして続けるより、別の対応をした方が楽だと思うようになり、やめました。
BIFF:短く必要なことだけ返す
BIFFは、攻撃的なメールやメッセージなどに返信するときの方法です。
BIFFは、
- Brief(短く)
- Informative(必要な情報を)
- Friendly(友好的に)
- Firm(毅然と)
の頭文字を取ったものです。
私も、口頭で話すと揉めるので、文章で短く伝えるようにしたことがあります。
でも、文章で伝えても口頭で伝えても、夫は結局怒りました。
その無限ループから、私は降りることにした
私は、夫には自分が矛盾したことを言っている自覚がないと思っています。
何を言っても、結局は怒って「私が悪い」という結論になる。
だったら、もうその無限ループから私は降りる。
今は、そのときの状況に合わせて臨機応変に、自分が一番楽に済む方法を選んでいます。
参考文献
- Bateson, G., Jackson, D. D., Haley, J., & Weakland, J. (1956). Toward a Theory of Schizophrenia. Behavioral Science, 1(4), 251–264.
- Koopmans, M. (2001). From Double Bind to N-Bind: Toward a New Theory of Schizophrenia and Family Interaction. Nonlinear Dynamics, Psychology, and Life Sciences, 5(4), 287–323.
参考資料
High Conflict Institute. (2007). How To Write A BIFF Response®.