虐待で脳は萎縮する?モラハラ夫の怒りは過去の虐待と関係あるのか

虐待を受けた人では、脳の一部が萎縮していることがMRI研究で確認されています。

どの部分がどれだけ小さくなっているかまで確認されていて、部位によっては逆に肥大も見つかっています。

この分野を研究しているのは、福井大学の友田明美教授や、ハーバード大学医学部のマーティン・タイチャー教授らです。

では、虐待による脳の変化は、大人になってからの怒りやすさとどう関係しているのか。

私が調べたのは、

  • 虐待で脳のどこが、どう変わるのか
  • なぜ怒りやすくなることがあるのか
  • 受けた年齢によって影響を受ける場所は変わるのか
  • 萎縮した脳は元に戻るのか
  • 虐待を受けても、その後加害者になる人が多数派ではないこと

夫は脳の検査も、怒りの原因について精神科で診断を受けたこともありません。

なので、

「夫が怒鳴るのは虐待で脳が変化したからだ」

と断定することはできません。

この記事では、研究で分かっていることと、私が実際に見てきた夫の言動を分けて書きます。

目次

虐待で脳はどう変わる?MRI研究で分かっていること

友田教授らの研究では、受けた虐待の種類によって、脳に異なる変化が確認されています。

マルトリートメントとは?虐待より広い「不適切な養育」

「マルトリートメント」とは、日本語では「不適切な養育」と訳される言葉です。

身体的虐待や性的虐待だけでなく、ネグレクト、無視、放置、言葉による脅しや威嚇、罵倒、子どもの前での激しい夫婦げんかなども含まれます。

日本語で「虐待」と聞いたときに想像するものより、かなり広い範囲を指します。

判定の基準は、親に傷つけるつもりがあったかどうかではなく、子どもにとって有害だったかどうかです。

目立った外傷や精神疾患が出ていなくても、養育者の言動や関わり方が子どもにとって不適切であれば、マルトリートメントに含まれます。

体罰を受けた人では、前頭前野の容積が小さかった

体罰を経験したグループは、前頭前野のうち感情や思考をコントロールして行動を抑える部分の容積が、そうでないグループより平均19.1%小さくなっていました。

集中力や意思決定、共感にかかわる脳の奥にある右前帯状回(うぜんたいじょうかい)も減少しています。

小児期に過度の体罰を受けることは、うつ病などの気分障害や、非行を繰り返す素行障害など、さまざまな精神症状とも関連しています。

暴言を受けた人では、聴覚野が大きくなっていた

この研究では、暴言の影響は萎縮ではなく肥大という形で見つかりました。

言葉による虐待を受けて育った人では、聴覚野の一部が平均14.1%大きくなっていました。

聴覚野は、耳から入った音を処理したり、人の言葉を理解したり、会話したりすることに関わる部分です。

また、暴言が深刻だった人ほど、聴覚野の変化も大きくなっていました。

脳が大きくなったと聞くと、一見いい変化のようにも思えます。でも、この研究で見つかった肥大は、暴言による影響として確認されたものです。

両親のDVを見聞きした人では、視覚野が小さくなっていた

子どもの頃に両親のDVを見聞きして育った人では、目から入った情報を処理し、見たものを認識する視覚野の一部が、そうでない人より6.1%小さくなっていました。

また、DVを見聞きして育った子どもは、トラウマ反応が起きやすく、知能や言葉を理解する力にも悪影響が出ることが分かっています。

「殴ってないから大丈夫」

ではなく、怒鳴り声や罵倒を聞いているだけでも、子どもの脳は傷つきます。

虐待経験と怒りやすさの関係|扁桃体と前頭前野で起きること

ハーバード大学医学部のマーティン・タイチャー教授らは、虐待を受けた人の脳について、これまでの研究をまとめています。

そこで多くの研究に共通して見つかっているのが、次の3つです。

危険を察知する「扁桃体」が過敏になる

一つ目が、扁桃体の反応です。扁桃体は、危険を察知して体に警報を出す部分です。

虐待を経験した人に、怒った顔や怖がっている顔の写真を見せて脳の反応を調べると、扁桃体が強く反応していました。

危険を察知するセンサーが敏感になっている状態です。

扁桃体と前頭前野の連携が乱れる

ふたつ目が、前頭前野と扁桃体のつながりです。

警報が鳴っても、それを抑えるのが前頭前野の役目です。

「落ち着け。これは本当の危険じゃない」

そう判断して、扁桃体を落ち着かせます。

虐待を経験した人の脳では、この2つをつなぐ回路が乱れていました。

危険を知らせるセンサーである扁桃体は敏感なのに、それを落ち着かせる前頭前野との連携は弱い。

そのため、怖さや怒りが出たときに、感情を落ち着かせる調整がうまく働きにくくなります。

普通の質問でも「責められた」と反応する夫

では、こうした研究を夫にそのまま当てはめられるのか。

夫は脳の検査を受けていないので、もちろん断定はできません。

ただ、私が実際に見てきた夫の反応には、気になる部分があります。

たとえば私が、

「これ、どこに置いた?」

と聞きます。

物の場所を知りたいだけです。夫の返事は、

「俺は何もしてない!」

です。私は誰のせいかを聞いていません。それでも夫の中では、責められたと勘違いしています。

キレると、夫はさらに周りが見えなくなります。

夫の関心は、自分の怒りをぶつけることに向いています。

私が怒鳴られ、人格を否定されていても、そこで怒鳴るのをやめたり、私の状態を気にしたりすることはありません。

「うれしい・楽しい」に関わる脳の反応が鈍くなる

褒められそうなとき、欲しかったものが手に入りそうなとき、目標を達成できそうなとき。

こうした「うれしいことが待っている」と感じる場面では、脳の線条体(せんじょうたい)という部分が反応します。

虐待を経験した人では、こうした報酬を期待したり受け取ったりするときの線条体の反応が弱くなっていました。

そのため、褒められても達成感を感じにくかったり、何かをやろうという意欲が湧きにくかったりすることがあります。

こうした傾向は大人になってからも続くことがあり、うつなどの心の不調にも関連しています。

虐待を受けた年齢によって、影響を受けやすい脳の部位が違う

同じ虐待でも、受けた年齢によって影響を受ける脳の部位は変わります。

脳は部位ごとに育つ時期が違うため、その時期に発達している部位ほど影響を受けやすいからです。

脳の部位ごとに、ストレスの影響を受けやすい年齢がある

脳には、ストレスの影響を受けやすい時期があります。

こうした「感受性期」は身体的虐待や心理的虐待などを含むマルトリートメント全般で研究されています。

その中の一つ、タイチャー教授らの研究では、子ども時代に性的虐待を繰り返し受けた女性を対象に、虐待を受けた年齢と脳の部位との関係を調べています。

  • 海馬(かいば):3〜5歳、11~13歳
  • 脳梁(のうりょう):9〜10歳
  • 前頭皮質(ぜんとうひしつ):14〜16歳

海馬は記憶をつかさどる部分、脳梁は右脳と左脳をつなぐ部分、前頭皮質は判断や感情のコントロールに関わる部分です。

虐待を受けても、加害者になる人が多数派ではない

虐待を受けた子どもがその後どうなるのかを、長期的に追った研究があります。

虐待を受けた経験があると、その後さまざまな問題が起きるリスクは上がりますが、実際に加害者になる人は多数派ではありません。

虐待歴があると逮捕リスクは上がるが、大半には犯罪歴がなかった

この話でよく引用されるのが、キャシー・スパッツ・ウィダムが1989年に『Science』に発表した追跡研究です。

虐待やネグレクトを受けた子どもたちが、その後どうなったのかを調べたところ、虐待歴のないグループと比べて、逮捕される可能性は少年期で53%、成人期で38%、暴力犯罪で38%高くなっていました。

ただ、虐待を受けたグループでも大半は少年期にも成人期にも犯罪歴がなく、非行や犯罪、暴力に至った人は多数派ではありませんでした。

「虐待された子は自分の子も虐待する」とは限らない

では、自分が親になったときはどうなのか。

カウフマンとジグラーのレビューでは、子ども時代に虐待やネグレクトを受けた人のうち、自分の子どもにも虐待やネグレクトをする人は約3分の1と推計されています。

約3分の2は、自分の子どもを虐待していないことになります。

ウィダムがその後30年間追跡し、2015年に『Science』へ発表した研究では、もう一つ重要なことが分かりました。

そこで分かったのは、

「虐待は世代を超えて連鎖する」

という数字は、調べ方によって大きく変わるということです。

虐待歴のある親は、行政などから注目されやすく、その家庭で起きた虐待も見つかりやすい。

反対に、虐待歴が知られていない親の家庭では、同じことが起きても見つからない可能性があります。

虐待による脳の変化があっても、精神疾患を発症しない人もいる

タイチャー教授らは、さらに直接的なことを確認しています。

虐待を経験し、脳にも虐待経験者に見られるような変化があるのに、精神疾患を発症していない人たちがいました。

脳に影響を受けやすい部分が残っていても、ほかの働きで補っている可能性があると報告されています。

虐待による脳の変化があったからといって、精神疾患を発症するとは限りません。

夫は「親も過去も関係ない」と言った

夫の言動を見ていると、

「幼少期の虐待の影響が大きい」

と思わざるを得ない場面が何度もあります。

夫がキレ散らかしている最中に、私は言いました。

「私はあなたを虐待していない。怒鳴ってもいないし、人格否定もしてない」

「急にキレるのはいつもあなた。冷静に考えたら、キレるようなことは一つもない」

「どうしてあなたは、親にされたことを私にしてくるの?」

すると夫は、

「親は関係ない。過去は関係ない」

と怒鳴りながら答えました。

なので私はさらに、

「怒鳴ったり人格否定したりするのは、虐待とも親とも過去とも関係ない。今そう言ったよね。じゃあ、それはもう元々のあなたの性格ってことだよね」

原因が虐待なのか、生まれ持った特性なのか、性格なのか。夫は診断を受けていないので、私には判別できません。

ただ、最近はもう、

「この人、元々こういう性格なんじゃないか」

としか思えなくなってきました。

発達障害があっても、虐待を受けていても、人を怒鳴ったり人格否定したりしない人はいるからです。

夫に発達障害の特性があるのではないかと考えた理由については、こちらの記事に書いています。

虐待された人が、虐待した親を恨むとは限らない

虐待を受けたからといって、自分を虐待した親を恨むとは限りません。

親を悪く言わなかったり、されたことを大したことではないように話したりする人もいます。

虐待した親を悪く言えないことがある|裏切りトラウマ理論

オレゴン大学のジェニファー・フレイドが提唱した「裏切りトラウマ理論」という考え方があります。

生きていくために頼らなければならない相手から傷つけられた場合、その裏切りを認識すること自体が危険になるという理論です。

子どもが「親から傷つけられている」とはっきり認識すれば、その親から離れたくなります。

でも、子どもは親から離れて生きていけません。食事も住む場所も、その親に頼っているからです。

そのため、親から傷つけられていることを、はっきり認識しないまま関係を保つことがあります。

フレイドは、こうして裏切りが見えなくなることを「裏切りへの盲目」と呼びました。

親を理想化する・自分を責める・記憶が抜けることもある

具体的には、こういう形で出ることがあります。

  • 加害した養育者を理想化する
  • 起きたことを自分のせいにする
  • 記憶が部分的に、あるいは完全に抜け落ちる
  • 解離する

実際に、身体的虐待や性的虐待を受けた人では、加害者が養育者だった場合、その出来事を部分的または完全に思い出せない人が多くなっていました。

虐待を受けた年齢や、虐待が続いた期間を考慮しても、この差は残りました。

暴力的な相手から離れにくい大人にも見られる

この理論が説明しているのは、子ども時代の話だけではありません。

暴力的な関係から離れにくい大人にも、似たことが起こります。相手から離れられない事情があると、加害者を理想化したり、責める代わりに自分を責めたりして、関係を続けてしまうことがあります。

こうした現象は、1980年代から「トラウマティック・ボンディング」として研究されてきました。

傷つけられているのに相手を庇う、ということも起こります。

母親を「頭がおかしい」と言うのに、虐待への怒りはほとんど口にしない夫

夫は、母親からよく殴られたと言っています。頭も殴られたそうです。ほかにも怒鳴られ、人格を否定されて育ちました。

この記事の前半に出てきたマルトリートメントに、そのまま当てはまります。

夫は母親のことを「頭がおかしい」と言います。

ただ、自分が殴られたり怒鳴られたりしたことについて、母親への怒りを口にすることはほとんどありません。

萎縮した脳は元に戻るのか

一度小さくなった脳も、その後に回復する可能性があります。

脳には、回復につながる変化が起こる「可塑性」がある

脳には「可塑性(かそせい)」があります。

経験や環境によって脳の構造や働きが変わる性質のことで、失われた機能が回復する方向に変わることもあります。

紹介されている例のひとつが、慢性疲労症候群の成人患者に認知行動療法を行った研究です。9か月後、前頭前野の容積が増加していました。

動物実験でも、母親から引き離されたラットはストレスに弱くなりましたが、その後、適切に養育される環境に移すと回復しました。

心理療法は、通うだけで考え方や行動が変わるわけではない

可塑性があるといっても、放っておいて元に戻るわけではありません。

紹介した研究では、認知行動療法を受けたり、養育環境が変わったりしています。

心理療法の効果について、過去の研究をまとめた研究者は、治療の技法そのものが占める割合を約15%、本人の特性や治療以外の環境などを約40%と見積もっています。

そこで大事になるのが、本人がどう取り組むかです。

気づくだけで終わらせず、自分の考え方や行動のパターンを振り返り、今までとは違う考え方や反応を試していく。

実際に、心理療法を受ける人の「変わろうとする準備」ができているほど、治療の結果も良い傾向があることが、76の研究をまとめた分析で確認されています。

長く治療に通っているからといって、それだけで考え方や行動が変わるわけではありません。

2年間セラピーに通っても、私への怒鳴りと人格否定は変わらなかった

夫は、対面のセラピーに1年、オンラインのセラピーに1年、合計2年間通っていました。私と知り合う前から通い始めています。

セラピーが終わると、夫は毎回その日の内容を私に話してきました。出てくるのは、

「母親に何をされたか」

という話がほとんどでした。

自分の考え方や行動を今後どう変えるか、という話を夫から聞いたことは一切ありません。

2年間セラピーに通っていたという事実だけを見れば、夫は治療を続けていました。

ただ、前の章で触れたような、自分の考え方や行動を振り返って

「自分はこれからどう変えるか」

と取り組む姿は、私には見えませんでした。

セラピーをやめた今も、私への怒鳴りや人格否定は続いています。

私が7年間続けたのは、考え方と行動を変えること

私は当時、ここで紹介したような研究までは知りませんでした。

ただ、心理学などを勉強する中で、自分の考え方や行動のパターンに気づいて、今までとは違う考え方や行動を試していくことは何度も学びました。

「じゃあ、自分でやってみよう」

と思って、そこから約7年間続けました。

自分がなぜこう考えるのか、なぜ同じことで苦しくなるのかを振り返って、気づいたことがあれば今までとは違う考え方や行動を試す。その繰り返しです。

正直、かなり苦しかったです。

本当に自分が変われるのか分からないまま続けていた時期もありましたし、専門家についてもらったわけではないので、

「これで合っているのかな」

と不安になることは何度もありました。

今回この記事を書くために研究を調べてみると、本人がどう取り組むかと、その後の改善には関係があることが、多くの人を対象にした研究でも確認されていました。

「私がやってきたことも、あながち間違いではなかったんだな」

と思いました。

かといって、完璧に生まれ変わったかと言えば、そうではありません。

落ち込んだときや体調が悪いときには、昔の考え方に戻ることもあります。

ただ、昔は一度落ち込むと、その考えに引っ張られたままでした。今は昔の考え方が出てきても、

「またこの考え方になってるな」

と気づいて、そこから抜けるために何をすればいいのか分かります。

私が7年間でやったのは、自分のことを理解して、自分が生きやすくなる考え方や対処法を少しずつ増やしていくことでした。

夫のトラウマを、私への精神的DVの免罪符にはしない

夫にトラウマがあることは、たぶん本当だと思います。

母親から怒鳴られ、人格を否定されて育った夫は、今、私に怒鳴り、人格を否定しています。

幼少期の虐待が夫に影響していたとしても、それで私への精神的DVが許されるわけではありません。

発達障害があっても、虐待を受けていても、人を怒鳴らずに生きている人はたくさんいます。

私はもう、夫の過去を理由に、今されていることまで仕方がないとは思いません。

参考にした研究・資料

日本語で読めるもの

英語論文

  • Teicher, M. H., Samson, J. A., Anderson, C. M., & Ohashi, K. (2016). The effects of childhood maltreatment on brain structure, function and connectivity. Nature Reviews Neuroscience, 17(10)
  • Widom, C. S. (1989). The Cycle of Violence. Science
  • Widom, C. S., Czaja, S. J., & DuMont, K. A. (2015). Intergenerational transmission of child abuse and neglect: Real or detection bias? Science, 347(6229)
  • Freyd, J. J. (1994, 1996) 裏切りトラウマ理論/裏切りへの盲目
  • 心理療法の共通要因(コモンファクター)に関する研究:Lambert, M. J. / Wampold, B. E. ほか
  • Andersen et al. (2008) 感受性期研究
  • Tomoda et al. (2009/2011/2012) のMRI研究
  • de Lange et al. (2008)
  • Krebs et al. (2018)
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