子どもの頃に傷ついた経験は、大人になった今の人間関係にも影響するのでしょうか。
その説明としてよく出てくる言葉のひとつが、「インナーチャイルド」です。
私が以前スピリチュアルにどハマりしていたとき、インナーチャイルドはスピ用語かなんかだと思っていました。
というのも、日本語で「インナーチャイルド」と検索すると、
「あなたの心の中には傷ついた子どもがいます」
「その子を抱きしめて癒してあげましょう」
……は?
この説明だけでは、インナーチャイルドが何を指すのか全くイメージできませんでした。
愛着や認知行動療法みたいに、
「こういう経験をしてきたから、今こういう反応が出やすい」
と説明されるなら、話がつながります。
でも、
「あなたの中には傷ついた子どもがいます」
と言われると、
「じゃあ今の私は何なんだ」
「大人の私も普通に傷ついてるけど」
となる(笑)
そこでこの記事では、インナーチャイルドとは結局何なのか、そして子どもの頃に身についた反応が、大人になってからの人間関係やモラハラ被害の中でどう出てくるのかを、心理学や研究をもとに見ていきます。
インナーチャイルドとは?
インナーチャイルドとは、簡単にいうと、子どもの頃の経験が、大人になった今の感情や考え方、行動にも残っていることを表す考え方です。
心理療法の分野では、インナーチャイルドは比喩として使われています。
あ、やっぱり比喩なんだ。そりゃ「結局これ何?」ってなる人もいるよねw
実際、海外掲示板のRedditにも、「傷ついた内なる子どもは疑似科学ですか?」という質問がありました。
わかる。私も最初そう思ったw
2018年に『American Journal of Psychotherapy』に掲載された論文では、インナーチャイルドを認知行動療法の考え方と結びつけ、今の自分に出てくる考え方や反応が、どんな経験からできたのかを理解するために使っています。
また、同じ2018年に発表された別の研究では、20人の大人に子どもの頃の出来事を振り返ってもらい、インナーチャイルドという現象について調べています。
そこで語られていたのは、虐待やつらい経験だけではなく、親やきょうだい、友人との関係、いじめ、遊び、自立など、子どもの頃のさまざまな経験だとされています。
インナーチャイルドはスピリチュアル用語なのか
いいえ、スピ用語ではありません。
ただ、私がそう勘違いしていたのも無理はなかったと思います(笑)
実際に調べてみると、
「インナーチャイルドを癒すセッション」
「幼い自分に会いに行くワークショップ」
「潜在意識にいるインナーチャイルドと対話する」
といったサービスがたくさんあります。
中には、チャクラやエネルギー、魂、ヒーリングなどと一緒に扱っているものもあります。
そりゃスピ用語だと思うわ(笑)
でも、インナーチャイルドという言葉自体は、心理療法の分野でも使われています。
「心の中の傷ついた子どもを癒す」ってどういうこと?
子どもの頃につらい経験をすると、そのときの感情や、
- 自分が悪い
- 我慢した方がいい
- 相手を怒らせてはいけない
といった考え方が、大人になってからも残ることがあります。
心理療法では、そうした昔の経験や反応を振り返り、
「当時はどう感じていたのか」
「本当は何が必要だったのか」
「今の自分なら、その出来事をどう見るのか」
と捉え直していく方法があります。
たとえば、イメージ・リスクリプティングという方法では、子どもの頃のつらい記憶を思い浮かべ、その場面に今の自分や支えてくれる存在が入るなどして、その出来事を思い出したときに出てくる感情や考え方を、少しずつ変えていきます。
2023年のメタ分析でも、イメージ・リスクリプティングには、つらい記憶に関連する心理症状を改善する効果が報告されています。
子どもの頃の心の傷は大人になってどう影響する?
大人になっても残るのは「反応のクセ」
子どもの頃に身についた反応とは、たとえばこんなものです。
- 親が不機嫌になると、自分が何か悪いことをしたのかと考える
- 怒られないように、言いたいことを我慢する
- 相手の顔色を見て、自分の行動を変える
- 断るより、自分が我慢した方が早いと思う
- 相手が困っていると、自分が何とかしなければと思う
こうした反応は、長く続くほど当たり前になり、自分を苦しくしていることにも気づきにくくなります。
当たり前ですが、子どもの頃は、こうした反応が「あまりよくないこと」だとか、「自分を苦しめる原因になる」なんて分かりません。
その場で親や大人に怒られないためだったり、家の中を少しでも平和にするためだったり、その環境で過ごすために必要だったから身についた反応です。
インナーチャイルドとモラハラ被害の関係
自分を抑える・顔色をうかがう・断れない反応が、モラハラ関係でも続くことがある
幼少期に虐待を受けると、大人になってからも、自分の気持ちを抑えたり、相手を怒らせないように合わせたり、「NO」と言いにくくなったりする人がいます。
2023年の研究や2025年の研究でも、こうした反応が報告されています。
幼少期に虐待を受けた人の中に、大人になってからも、
- 自分の気持ちを抑える
- 相手を怒らせないように合わせる
- 「NO」と言いにくい
- 境界線を引きにくい
といった反応が残る人がいることが報告されています。
こうした反応がモラハラ関係の中でも出ると、嫌なことをされても強く拒否できなかったり、相手を怒らせないように自分の言動を変えたりします。
実際、幼少期の虐待と、大人になってからパートナーから暴力や心理的虐待を受けることには関連があるとする研究もあります。
インナーチャイルドと共依存がモラハラ関係で出るとき
「顔色をうかがう」「断れない」「相手に合わせる」といった反応が続くと、相手との関係でも自分より相手を優先しやすくなります。
こうした反応が人間関係の中で続くとき、よく出てくるのが「共依存」という言葉です。
共依存では、相手の問題まで自分のことのように抱えたり、相手を助けよう、変えよう、立て直そうとしたりして、自分のことが後回しになっていく関係が問題になります。
モラハラ関係で考えると、
「私が支えれば変わるかもしれない」
「私がもっと上手に接すればうまくいくかもしれない」
「この人を放っておけない」
と、相手の問題まで自分が何とかしようとしてしまいます。
2026年に発表されたレビューでも、共依存は正式な診断基準がなく、研究によって定義も異なる、議論のある概念とされています。
もともとは、アルコール依存症の人を支える家族、とくに配偶者の行動を説明する言葉として広がりました。
その後、
- 相手を優先しすぎる
- 自分を犠牲にする
- 相手を救おうとする
- 相手をコントロールしようとする
- 低い自尊心
- 感情を抑える
- 境界線を引きにくい
など、さまざまな特徴が「共依存」に含まれるようになりました。
「共依存」「インナーチャイルド」からセッションへ誘導するビジネスには注意
インナーチャイルドは、スピリチュアルや自己啓発系のビジネスとも相性がいいようで、
「インナーチャイルドを癒す」ことをうたうセッションや講座もたくさんあります。
中には、スピリチュアルを名乗らず、「カウンセリング」や「コーチング」として提供されているものもあります。
実際にいくつかのサイトを見ていると、人間関係で相手を優先しすぎる、離れたいのに離れられない、といった悩みを入口にして、
「あなたは共依存かもしれません」
↓
「傷ついたインナーチャイルドを癒しましょう」
↓
「こちらのセッションへ」
という流れにつなげているものが結構ありました。
私は、こういう形で悩んでいる人をセッションや講座へ誘導するやり方が苦手です。
誰にでも当てはまりそうな悩みに「共依存」や「インナーチャイルド」という名前をつけて、そのまま自分のサービスへ誘導するものもあります。
もちろん、カウンセリングやコーチングなどの有料サービスそのものが嫌いと言っているわけではなく、悩んでいる人を相手にするサービスだからこそ、私は売り方には慎重であってほしいと思っています。
人間関係で深く悩んでいるときは、
「どうにか楽になりたい」
「原因を知りたい」
普段なら「それ本当?」と思うような話でも、悩んでいるときは信じたくなることがあります。
本来なら、認知行動療法などの心理療法や、必要に応じて精神科・心療内科などの専門的な支援につながることで、改善できる問題かもしれません。
それなのに、
「原因は前世です」
「傷ついたインナーチャイルドを癒しましょう」
「あなたはこのチャクラが閉じています」
「ホロスコープを見ると、あなたが同じような人間関係を繰り返す理由がわかります」
「このセッションを受ければ変われます」
「潜在意識を書き換えれば、現実も変わります」
といった説明に誘導され、そこで時間やお金を使ってしまう人もいる。
私は、悩んで弱っている人を、根拠のはっきりしないサービスへ誘導するやり方が一番嫌です。
幼少期の虐待と私のモラハラ被害
私自身、幼少期に虐待を受けて育ち、その影響で大人になってからも、
- 人の反応を気にする
- 何か問題が起きると、自分にも原因がないか考える
- 相手に合わせる
といったことが残っていました。
これらについては、HSPや幼少期の虐待、自己犠牲についての記事でも詳しく書いています。(リンクをクリックすると該当記事に飛びます)
そして私は、後にモラハラ夫と結婚しました。
怒鳴ったり人格否定をしたりする夫に問題があることは分かっていました。
それでも、どうにか関係を立て直そうとして、夫自身の問題まで私が何とかしようとしていました。
今思えば、そこにも子どもの頃から続いていた反応が出ていたんだと思います。
まとめ|インナーチャイルドを「癒す」必要はある?
私はインナーチャイルドを癒そうとはしてこなかった
「インナーチャイルド」という考え方を知ったとき、私は、子どもの頃に一度も嫌な思いをしたり、傷ついたりせずに大人になる人の方が少ないんじゃないかと思いました。
親だって完璧ではないし、友達や学校で嫌な思いをすることもあります。
そう考えると、「子どもの頃の傷が今の自分に残っている」と言われても、それだけでは範囲が広すぎて、いまいちピンときませんでした。
だから私は、「インナーチャイルドを癒そう」とはしてこなかったんだと思います。
自分の反応を理解する方法はひとつではない
子どもの頃の経験が、大人になってからの考え方や人間関係に影響することは、インナーチャイルド以外の心理学でも説明されています。
たとえば、スキーマ療法では、子どもの頃の経験などから形成された「自分は大切にされない」「人は信用できない」といった根深い考え方や、そのときどきに出てくる感情・反応のパターンを扱います。
スキーマ療法には、「傷ついた子ども」「健康な大人」「幸せな子ども」などの名前がついた“モード”もあります。
名前だけ見ると、なかなかスピリチュアル界隈が好きそうです(笑)
でも、これは本当に心の中に何人もの人格がいるという話ではなく、そのとき前面に出ている感情や反応を分かりやすく整理するためのものです。
認知行動療法では、これまでの経験から身についた考え方のクセが、今起きている出来事をどう受け取るかや、その後の行動に影響すると考えます。
愛着の研究では、子どもの頃の養育者との関係と、大人になってからの親密な人間関係との関連が調べられています。
実際、2026年に発表されたメタ分析でも、子どもの頃の虐待と、大人になってからの愛着不安・愛着回避には関連があると報告されています。
一方、インナーチャイルドは、2018年の論文でも、心理療法で使われる「比喩」として扱われています。
私なりにかなりざっくり分けると、
- 愛着理論は、人との関係の土台を見る
- 認知行動療法は、今の考え方や行動のクセを見る
- スキーマ療法は、幼少期から続く根深い考え方や反応のパターンを見る
- インナーチャイルドは、それらを「子どもの頃の自分が今も反応している」とイメージしやすく表現する
という感じです。
だから、「インナーチャイルド」だけが、子どもの頃の経験と今の生きづらさを説明する唯一の考え方ではありません。
ただ、インナーチャイルドという言葉で考えると分かりやすい人もいると思います。
私の場合は、「なぜ自分はこう反応するんだろう」と原因を探して、自分の考え方や行動を少しずつ変えてきました。
インナーチャイルドという言葉で考えても、別の考え方から見てもいいし、自分がなぜ苦しいのか、何を変えれば楽になるのかが分かるなら、どの方法でもいいと思います。